活命料(6) 第332回
十湖宅では郵便物を一日三回、妻佐乃の指示で弟子らが郵便局に取りに行く。
「すみません。郵便取りに来ました」
弟子が局内へ声をかけると、若い局員が忙しそうに郵便の束を持ってきた。
わざわざ取りに来る客は局では知らぬ者はなく、預かる郵便物も切手が貼ってなかったりする。それを局では立替えて切手を貼って出しているのだ。
十湖のものではしょうがないと、有る時払いの催促なしでまかり通っている。日々配達される郵便物は数十通を下らず、切手の購入や小包の発着数は笠井局の取り扱いの三分の二以上を占めていた。
暮れも押し迫り、わずかだが近隣の弟子たちから活命料が届いた。
晦日午後になり、外は雲行きも怪しくなって風花が舞いだした。
十湖の邸に隣接した庵では、弟子たちや食客らがそれぞれ背を丸くして、火鉢にあたっていた。
火鉢の中の炭火もいつまで続くやらと、弟子の口から愚痴が漏れた。
十湖だけは自室に籠もり半紙に向かって黙々と筆をとっていたが、俄かに邸の玄関先が賑やかになった。
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