活命料(5) 第331回
尾張の知多郡加木屋町宗匠久野襦鶴が十湖からの手紙を開封していた。
――またまたご面倒申し上げ候
老生、活命料の儀今一切ご尽力願い上げ候
風交会や銀行や鹿島や其の他、猫でも杓子でも遊女でも芸者でも何でもかんでも金さえいただければ
其れでよし、後日返礼黄金をつまん、これは出来過ぎたり失敬、年の坂越す事覚束なし、平にひらに
ご尽力願い上げ候
この頃近江の義仲寺の翁忌に詣でるやら・・・・中江藤樹先生のお墓に詣でたりして、無い銭を遣い
申訳無の事に御座候
これが即ち僕の病なり。嗚呼――
「十湖宗匠らしいのう。呑気なもんじゃ。庵には食客がいつでもゴロゴロしているし、周りは大変なことだろう」
襦鶴はそう一人つぶやきながら弟子を呼び寄せ、一円札を渡し手紙の主へ返事を出せと伝えた。
十二月十二日俳諧評論には十湖が耕雨宛へ送った手紙文が掲載されていた。
――雑誌毎号御贈付かたじけなく御礼申し上げ候、
迂老の事何かとお書き下され喜び入り候
この頃義仲寺の翁忌に文台奉納として出頭それより藤樹聖人の墓に詣で候
足下も東海道を御待申居候
来年の初め頃如何にや 耕雨老兄机下 十湖拝――
年内はこうして静かに暮れようとしていた。
金が無ければさすが十湖も動けなかった。
妻佐乃が取立てに来る酒屋や米屋に笑顔で対応し、年越しの野菜だけは近所で調達していた。だが、気がかりは年始の際の来客接待と、年賀の行事の諸費用である。
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