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2020年7月23日 (木)

四国の旧知(3) 第413回

 十湖は和尚の顔に眼を向けると、和尚は笑みを浮かべながら
「俳禅一味とは心に響く四文字ですな。後世に残したいことばですがのう」
「話は変わるが、かつて宮本武蔵は自らの剣の道を「剣禅一如」といっていたそうな。わしの俳句の道も同じようなものじゃ」
 十湖はそういって高笑いをした。
 和尚には俳禅一味の十湖の思いが伝わったらしい。
「わしはすでに門人知友と謀り、俳禅一味の碑石を浜名郡北浜村貴布祢に建てた。もって不朽に伝えようとな」
 と十湖は云いながら腕組した手を解き、庭に向かって両手を広げ大あくびをしたのだった。
「雲林居士は地下にあって翁の古希を祝い、俳句の道一筋の宗匠に破顔一笑していることでしょうな」
 笑う和尚の声が、境内の蝉しぐれにかき消されていた。十湖の心は既に伊勢路の旅に跳んでいた。

 大正八年三月七十一歳になる十湖は再び伊勢路を行脚することになった。
 伊勢の門下生の招きで来る七日から出発する。同行は門人奇峰と常春である。
 いつものことであるが旅立ちの一句 
  
     神風に向こうて春の門出かな

 伊勢へ着けば何より先に伊勢神宮を参拝する。
 その後は各地で句会を開催し、鳥羽へ出てゆっくりする予定だ。
 だが今回の旅は少し十湖には秘めているものがある。旅立つ前に和尚には話さなかった、もう一か所の立ち寄り先のことである。

Haizenitimi

                            (十湖書)                    

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