高野山紀行(5) 第442回
そのうち黄鶴の奇行が目立ち始めた。
十湖の舘でも話題になり
「最近、黄鶴のうわさが絶えませんね」
弟子のひとりが随處につぶやいた。
「それが、どうも近所では変人扱いにされているようで」
黄鶴の家庭生活面が酒びたりの毎日に変わっている。
世間の不評は彼の経済面から出たものであった。
だからといって俳句や画に素質がない訳ではない。
彼の持前の偉才は生きているはずだった。
しばらく庭を眺め考え事をしていた十湖は、やはり黄鶴を同行させようと決めた。
いろいろと思案に暮れたが、十湖は今回の旅への同行者三人を一番弟子の随処に告げた。
「黄鶴に決めましたか。私もそれが良いと思っていました」
随処は、心から十湖を労った。
大正十四年、十湖七十七歳の六月一日早朝、紀州の門人からの招待を受けて、一行は高野山へ向けて出立した。
門人鈴木卓曙、小田松陰、鈴木黄鶴の三人が同行した。
予定では高野山から山陽方面に向かい、神戸に滞在して六月十五日帰庵するはずであった。
出立の日は既に梅雨入りしていたが、この日は正に梅雨の晴れ間といったところか。
首途にあたり
梅雨晴の不二を後に首途かな
十湖も年のせいか、浮き立つ様子もなく淡々と静かに旅立っていった。
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