若き日の富田久三郎(8) 第454回
市野家の方角で騒然たる物音がするので、二人は鉄砲を引っ提げて飛び出し街道を南に向かって走っていくと、行く手に市野家の家族を捕縛した藩兵を見かけた。この中には市野内匠はいないが、家族七人を縛り引き揚げてきたようである。
これを見た村民が大きな声で叫んでいる。
「家族全員解放せよ。解放せよ」
と何度叫んでも知らぬ存ぜずの藩兵たちに、号を煮やした祖父は
「久三郎、脅しに撃ってやれ」
久三郎は銃を腰だめしで構えると、最後尾の捕吏に狙い定める。
銃は手製の鳩撃ち鉄砲で、距離は十間程度のところ。
「ダダァーン」
一発目は最後尾の捕吏の胸に命中。続く二発目はその前をいく捕吏の腕をかすった。二人は従軍のときの緊張感が呼び戻された。
「相手が即死だとまずいな。家には帰れないぞ」
保五郎が久三郎の顔を見つめて不安そうに云った。
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