若き日の富田久三郎(14) 第460回
暮れも押し迫り家業も多忙を極めた。
それでも久三郎は家業を父らに任せて再び気賀の山中を目指していた。
大葉樫から咳止め薬を作り出すことは容易であった。
さらに黒文字の木から揮発油を抽出し、「黒文字油」と名付け香油の原料として年明けには製造販売する目途がついた。来年三月には気賀へ移り住み本格的に着手しようと思った。
ある日、市野では勘七とゆきが祖父を交え話している。
「じいさま、久三郎が今年で二十一になるが、これから一人で気賀に住むというので嫁をもらってはと思っているのだが、どうだろうか」
勘七はさらっと言った。
「わしは予てから嫁を探していたが当事者同士が気に入るかどうかだが」
「こりゃあ考えが一致したなあ。ゆき、お前はどう思う」
「私も賛成です。じい様の言うとおり、あの子には今が一番大事な時ですから」
祖父の尽力で嫁とりの話はとんとん拍子に進み、明治五年十二月には長上郡内野村の大村為吉の長女きぬ、当年十六歳と結ばれて気賀に移り住んだ。
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