高野山紀行(6) 第443回
同行者の一人に加わった黄鶴は、三年前に十湖に同行した北国行脚の時を思い出し、あの時のような自分本位の行動は十湖が懲りているはずだ、今度ばかりはないだろうと鷹を括っていた。
それに交通機関もめざましく進歩して、汽車は一旦乗れば目的地まで連れて行ってくれるとあって、行く先への不安もなくなった。
だが今の自分には一緒に行く資格はないはずなのに、十湖が同行を許してくれたことに感謝した。
黄鶴は汽車の窓に顔をよせながら、十湖に弟子入りした頃を振返っていた。
十湖は今の自分を必要としている。
うぬぼれではないが弟子の中でも中堅になり、十湖が常に何をしようとしているかが分かるようになった。
本当は画人として大成したいが、俳人としても十湖についていこうと思っていた。
どこからか風が吹いている。
ふと我に返ると、十湖が少しばかり窓を開け外の空気を楽しんでいた。
すれ違う汽車より風の薫りけり
涼風をのせて走るや汽車旅行
やがて、汽車は名古屋駅に煙を吐きながら滑り込んだ。
早朝に浜松を発ち、名古屋に着いた一行は思い思いにホームで体を伸ばした。
涼しさや中京の名も広小路
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