若き日の富田久三郎(11) 第457回
炭酸マグネシウムの特徴は、比重が軽いので容積が大きくなり運送に多額の経費を要するため高価であった。当時は輸入に頼らなければならなかった。
「どうすれば、国内で良質のものを安価で多量に生産できるか」
久三郎は日々模索していた。やがて順を追って解いていく。
炭酸マグネシウムを作るためには苦汁(にがり)が必要である。
苦汁はどうやって手に入れるのか、苦汁は製塩の副産物であるからして製塩地を探し確保することだ。
他には炭酸ソーダ(ソーダ灰)を必要とする。これはわが国にはないので代用品をどうするか。
市野では名古屋で学んだ知識を生かし炭酸マグネシウム製造に必要な化合釜・乾燥室・洗浄器・濾過機・造形箱・風送室・溶解鍋などの各種機械器具や装置を工夫し発明した。
その装置を活用し煙草の茎からソ―ダ灰の代替品を作り出した。
「残るは苦汁を取り出す製塩地を探すことだ。どこが一番近いか。市野からは遠州灘か浜名湖しかない。遠州灘は海が近いけど製塩には向いていない。やはり浜名湖か」
早速、製塩地を探す。同時に製塩の副産物である苦汁を原料とする製法の本格的な研究も忘れなかった。
「いかん、最も大切なことを一つ忘れていた。今は生業で稼いだ金の一部を研究と活動費に使っているが、このままでは資金力不足で自滅してしまう」
と自問自答した。
思い立ったら行動は素早かった。季節も天候も無視、若さと独り者の強さである。久三郎は二十歳になるかならんかの成長盛りの若者であった
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