« 俳人十湖讃歌 第26回 戸長の重責(2) | トップページ | 俳人十湖讃歌 第28回 戸長の重責(4) »

2022年7月 6日 (水)

俳人十湖讃歌 第27回 戸長の重責(3)

「おおい吉平さ、起きてるか」
 ドンドンと玄関の戸をせわしなく叩く。雨脚はだいぶ遠ざかったようで玄関を叩く音だけはよく響いた。
「誰だ。何かようか」
 吉平は戸を開けながら聞くと
「すまん俺だ。うちんとこの堤防が破られそうだ。皆で堤防を積んでいるが、もはや力果て気力も失せてしまった。なんとか助けてもらえないだろうか」
 訪ねて来たのは隣村の戸長大橋だ。
 背後に若い者二人が顔を覗かせた。
 隣村では士気が低下し、皆体力が失せていることを吉平は察した。
「それじゃ誰か酒屋へ走らせよ。ついでに警察にも出張を乞いに行かせよ。お前とわしは急いで現場へ向かうぞ」
 倉中瀬の堤防からは暗くて川の流れは見えないが、まだ堤防が氾濫するには至っていないようだ。
 九月とはいえ水に濡れれば肌寒い。
 しかもこんな夜中に、飲まず食わずで作業してもはかどるはずがない。
 いっそ、夜明けを待って動く方が賢明なはずだ。
 戸長大橋にはその判断ができず、異常事態には少しでも早く対処すればよいとの思いが先回りして、指揮だけが空回りしているようだ。
 間もなく、堤防に警官がひとり走って来た。

Akihatoro
(秋葉山灯篭より天竜堤防遠望)

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 地域生活(街) 中部ブログ 浜松市情報へ
にほんブログ村

 

 


歴史ランキング

 

 

| |

« 俳人十湖讃歌 第26回 戸長の重責(2) | トップページ | 俳人十湖讃歌 第28回 戸長の重責(4) »

4戸長の重責」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 俳人十湖讃歌 第27回 戸長の重責(3):

« 俳人十湖讃歌 第26回 戸長の重責(2) | トップページ | 俳人十湖讃歌 第28回 戸長の重責(4) »