俳人十湖讃歌 第36回 管鮑の交わり(1)
一月十三日、吉平は予定通り静岡への赴任をする。
家の事は一切母に委ね、自分は妻と次男藤吉を連れて静岡西草深に向かった。
この頃県議会は自由民権運動の拠点であり、大迫県令率いる行政当局とは軋轢が甚だしく、様々な妥協策が講じられていた。
そのため議員でありながら県役人という異例な待遇で、調査課詰十六等出仕に任命された。
吉平は事務処理においてもさほど苦痛とは感じず、淡々と成績を修めていた。
同時に俳諧の道も怠ることなく、静岡吟社なるものを設け風韻雅流の同志を集めて吟詠を楽しんだ。
職務の疲れはここに忘れることができたのである。
県官としての仕事は例のとおり、建議書を長官に差出し自らの意見を論ずることである。
早速、各区長を招集して各自の意見を聞いた。
「このたび出仕した松嶋である。この際、県に対して述べたいことがあれば聞きたい」
吉平は併せて自らの意見も述べた。
一、郡長を集めそれぞれの意見を聞き、それをもって県会に臨むなら議案編成の参考となる
一、県会に今ある火鉢は粗悪であり、火災の危険と景観を損ねる
一、各課から代表を出して委員会を開き、事務の改善を図る
一、戸長を毎月又は隔月、郡役所へ招集し活動状況、調査結果を交流し民情に配慮する
これらをまとめて建議書として長官に差し出すと、さすがに理が貫かれた内容に長官は何も言なかった。
(明治村にて)
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