俳人十湖讃歌 第38回 管鮑の交わり(3)
県庁県令室では二人の男が密かに話している。
「気賀を異動させたのはよかったが、その後をどうするかだ。気賀の奴、散らかすだけで去ってしまったでのう」
県令の大迫は腕組みをしながら苦虫をつぶしたような顔で、石黒大書記官に向かい合って立っていた。
「他郡から異動させるとなると、そこも後が大変です。この際新たに任命したらどうかと思いますが」
石黒は手を後ろで組みながら、背筋を伸ばして実直そうな物腰で答えた。
「適任な候補者がいるか」
「県令がよくご存じの男はいかがかと存じます。中でも松島吉平が最適だと」
「十湖とかいう俳諧師の吉平か、少々癖のある男だが確かに職務は正確に熟している。こやつに託してみるか」
大迫は自分が静岡就任してきたときを思い出し、自らの運命と照らし合わせていた。
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