俳人十湖讃歌 第40回 管鮑の交わり(5)
吉平はそんな男に見込まれたのである。
五年前、県令就任歓迎会が浜松の旅館大米屋で開催されたときのことだ。あいさつに立った大迫が
「私が静岡県令として運営する以上、県政の公平無私を目指したい」
と語ったそのときであった。
「そんな月並みなことは聞きたくない。お前の政策を云え」
突然一人の若者が立ち上がると大声で怒鳴り、主催者をハラハラさせた。
これが吉平との最初の出会いであった。
以来、県で揉め事があると必ず吉平が首を突っ込み、解決の方向へ誘ってくれていた。
大迫は蔭ながらこの男を知り尽くしていたはずで、本当は吉平を郡長の職ではなく、最も相応しい働き場があることを想い、出し惜しみしていたといっていい。
だがこの際仕方がない。彼に期待することが今の県にとって一番望ましい選択だと決断した。
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