俳人十湖讃歌 第41回 管鮑の交わり(6)
吉平は大迫県令や石黒大書記官が、自分の信任を益々厚くしていることに感謝して、明治十四年七月二十六日両郡長就任を拝命した。
同二十八日、有志により盛大な送別会が開かれた。
このとき静岡裁判所の判事吉岡弘は、吉平とは特に親密の間柄であって送別会の主唱者となっていた。
もちろん、このとき大迫県令も出席している。
当日静岡県令大迫貞清から吉平に贈られた詩歌は
撫めくみやすらに治麁玉や
いなさ細江に浪たゝぬまで
席上、吉平に送る詩歌俳句など甚だ多かった。
吉平が職務の傍ら地元で俳諧を指導し、静岡吟社なる団体を組織して県人との文化交流をしてきたことが送別会に反映していたのである。
多くの祝吟に返す十湖の句は、引佐細江のほとりに行くに臨んで、これまで過ごした静岡の地に別れを惜しんで詠んだ。
涼しさに立ちさりかぬる木かげ哉 十湖(松島吉平)
すると友人である判事吉岡弘が
わかれ路や秋をも待ぬ虫のこえ 星秋(吉岡弘)
と返すと、吉平はこれでは収まらず断腸の思いで一句
虫の音に噺まぎらす別れかな 十湖(松島吉平)
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