俳人十湖讃歌 第70回 郡長その後(1)
早朝、撫松庵の庭の里芋の葉に朝露が溜まり毀れかかっている。
それをみた十湖は夏のすがすがしさを感じていた。
撫松庵では弟子たちが寝起きしているものあれば、俳句の修業のためやってきて門弟どうし自己研鑽をしている。
たまには地方から来る門人もあり常に話し声が絶えない。
ある日、弟子たちが未だ起きている様子はないので、十湖はひとりで近辺の散歩に歩み出そうとしていた。
公職をやめたからといって決して高齢ではない。
未だ40歳に満たない働き盛りである。
これからは自らが決めた朝の日課を始めようとしている。
日暮らしも賑やかしとまできく日かな
この日も朝食後は地域周りの挨拶が目白押しである。
俳句を詠めるのは早朝が最も適していると思った。
朝の空気をすーと吸い込み、たちどころに天竜川の支流にあたる大川方面へ足が向いた。
近所の百姓たちが十湖を見かけると、あいさつを交わしたあとには困りごとを愚痴ってくる。
「相変わらず村は困窮しているな。何とか百姓が働きしやすいように要求を解決してやらんと」
十湖はこれまでの経験から皆の声を聴くことが最も大切であると痛感していた。
母の健康上の理由により引佐麁玉郡長を辞任して、悠々自適の暮らしを故郷中善地の地で過ごしているかと思えば、むしろ忙しい日々となっていた。
(挿絵は「現代によみがえる報徳の絆」参考)
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