俳人十湖讃歌 第74回 郡長その後(5)
今にも庭の桜が咲き出そうとしているところ、1人の男子が入門してきた。
弱冠19歳の若者である。
笠井新田の生まれで大木久市郎と名乗り、俳句は既に達者であった。
十湖は清風居随処と俳号を与えた。のちの十湖の片腕ともいわれる七十二峰庵随處である。
6月になり、いよいよ衆議員の選挙期となり日ごろの活動に自信をもって候補の公約を掲げ印を上げたのである。
政治活動は衆目の共感を呼び、もはや当選を予期していたところ突然同区で立候補している某候補者から十湖のもとへ泣きがに入ってきた。
既にある十湖の投票株を譲与して欲しいと懇請してきたのである。
十湖の心情はこの場に及んで動揺した。
「わしは由来風流を嗜み仙境に悠遊するのいわゆる脱俗の人間だ」
との思いが強く、推薦者が止めるのを聴かずに投票を譲ってしまったのである。
あとで後悔して「野心を去り風流韻事に専ら努めよう」と改心した。
世の中に箒当てばや寿々はらひ
だが世の中はそうは甘くない。協力してきた衆はほおっておいてはくれない。
次は静岡県会議員選挙がある。いったん政治活動の旗揚げをしたなら出馬は当然と推挙されたのである。
選挙の結果は歴然としており、県議会の33番議員としてその名を高らしめたのである。
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