俳人十湖讃歌 第89回 尊徳の遺品(13)
五年後の明治三十年十一月十四日、懸案だった今市の報徳二宮神社が落成、鎮座式が行われる。
鎮座式に臨んで十湖は
大御代の光りぞ今日の宮遷し
と句を認めた。
落成式終了後、十湖は宮司の関根友三郎宅に宿泊し、夜を徹して二宮翁を語り合った。
十湖が短冊に一句を認め差し出したところ、それを読んだ関根氏がいたく感激し、あらためて句碑の建立を要請された。
無上の光栄と感涙した十湖は
明安し我も一夜の御墓守
と大書してして奉納したのだった。
十湖邸の年始の客もだいぶ減ってきたようで、弟子たちの会話だけが室内に響いている。
善右衛門と十湖の二人は押し問答のあと、ずっと黙ったままであった。
この様子を見ていた松島授三郎は、見るに見かねてそばから口を出した。
「今の世を見るにつけ、誰が尊徳の遺品を守るというのだ。宗匠を捨てては他にはいない。霊夢のお告げこそ二宮翁の言葉であり、どうして断ることができようか」
いつになく厳しい口調で十湖を説得した。
(小田原市 報徳神社内にある尊徳の像)
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