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2023年2月28日 (火)

鶴氅のゆくえー「尊徳の遺品」顛末記(2)

 夏休みになると一人娘のさつきは母の実家へ遊びに行き、祖父の畑仕事を手伝ったりしながら宿題に取り組んでいた。
 まだ小学校では将来の目標は定まらない。
 かといって遊んでばかりもいられない。一度は社会人体験の授業があったものの決め手にはならなかった。
「じいじ、わたし将来何になろうかな」
 祖父の意見を聞いてみようとしたことがあった。
「さつきが思うとおりの道へいけば良い」
 祖父は考えるヒントは出さなかった。
「ママのように看護師になるのかな。でも夜勤があると遊べないし」
「看護師かそれもいい。もっと調べてみると別の職業もいっぱいあるよ」
 祖父はさつきのことばにさり気なく同調した。そのうち二人の会話に祖母が加わってきた。
「さつきちゃんは歌が好きだしオペラがわかるんでしょ。それなら音楽の方面はどうなの」      
「そのことなら夕鶴を見に行った時のことだよね。ソプラノ歌手が『与ひょう、私の大事な与ひょう』って歌い上げるの。すてきだったなあ」
「大事な与ひょうだって。それなんだい」
 祖父は頭を掻きながら照れくさそうにさつきに訊ねた。
「怪我をした鶴を助けてくれた百姓なの。鶴は、その恩返しに与ひょうの女房つうになるの」
「鶴の恩返しの話かな」
 祖父はこの物語を知らぬふりをして首を傾け問い返した。
「つうは恩返しに反物を織るの。自分の羽毛を使ってね」
「ふうん。それからどうしたの」
「つうは自分が反物を織っているところを与ひょうに絶対見ちゃあ駄目って云うんだけど、我慢できずに与ひょうは覗いてしまった。その場面でつうが悲しそうに歌い上げたんだ。すごく高い声だったなあ」
 さつきの説明に祖母が頷づいて自分の想いを言った。
「それはつうの嘆きだったのではないの。見てはいけないというのに与ひょうはその約束を破ってしまったからね」

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