俳人十湖讃歌 第87回 尊徳の遺品(11)
「待て待て、譲るべきはわしではなくて掛川の岡田良一郎ではないのか。この男の方が相応しいと思うがそれは調べたか」
「もちろん、調べさせていただきました。現在、遠江報徳社の社長として活躍しています。ですが彼の業績は、事業経営に着手し農業振興のためにはなったでしょうが、純粋に農民を組織し、報徳仕法をもって農事改良を果たしてきた十湖様等の活動とは違います」
「そう云って頂けるのは嬉しい。だが遠州の報徳運動の元祖は岡田らだ。わしは彼等をおいては居ない。だから受取るわけにはいかん」
「いやそれは困ります。是非に受け取っていただきたい」
岡部は頭を畳に擦り付け、繰り返し懇願した。
十湖は相変わらず頬杖をついたまま、じっとして岡部の云ったことを反芻していた。
しばらく二人の間に、沈黙が続いた。
(現在の掛川報徳社)
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