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2023年3月26日 (日)

鶴氅のゆくえー「尊徳の遺品」顛末記(10)

 十一歳の夏、祖父から聞かされた話をこのとき思い出し、朧気ながら記憶していた鶴の織物の存在を確認したかった。
 尊徳の遺品なら報徳社が知らないはずがないと思った。まもなく背広を着た白髪まじりの恰幅のよさそうな初老の男がやって来た。
「お訊ねの鶴氅のことですが、私は見たことがあります。実はここと同じく報徳社関連の施設が小田原市にありまして、報徳博物館に所蔵されているはずです」
 理事という男性は、いとも簡単に答えてくれた。
「そこへ行けば展示されているのですね」
 さつきは意外という表情で礼を言った。
「ですが、なぜお嬢様が鶴氅のことをご存知ですか。これまでにこんな質問を受けたことはなかった」
 理事は「なぜ」と疑問符を付けてさつきに質問した。
「私の祖父から聞いたんです。尊徳さんは立派な方で相馬候から事業成功の御礼に拝領したのだと」
 さつきはそれ以上詳しくは応えなかった。
理事はおそらく鶴氅の由来を承知している上で質問したのだろうと思ったからだ。
「そうですか。それならぜひ博物館でご覧ください。駅から小田原城を目標に歩いて行けばわかります。城内の敷地に隣接して二宮報徳神社もありますので一緒に見学したらいかがですか」
 やはり鶴氅は現存しているんだ。ぜひ見ておきたいと心が躍り始めた。報徳社の施設見学は途中で切り上げた。
「私、今度の休みに小田原まで行って来るから。その結果を持って祖父のところへ行こうと思うの」 
「さつきちゃんさえよければそれでいいよ。日時は又連絡してね」
 翔太はそういうと手を振って別れた。さつきにとって自宅までの道のりは鶴氅のことで頭がいっぱいであった。
Hotokusya01
(大日本報徳社パンフレットより)


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