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2023年3月10日 (金)

鶴氅のゆくえー「尊徳の遺品」顛末記(5)

 さつきはグラスのお茶を飲みだすと祖父が古書のページを繰りながら語り始めた。
「相馬の殿様の話からしてみよう。早速江戸時代へタイムスリップだ」
「こうして、鶴氅が尊徳翁のもとに届いたというわけだ」
 と祖父は茶を一口飲むと、さつきに向かって言った。
「尊徳先生はまじめな人なんだね。それに褒美は欲しがらないなんて私にはできないわ」
「そうかな。殿様が何度か褒美を渡すために呼び出すが、忙しいの一点張りで受け取りに来ない。強情だといえばさつきと同じだ」
「じいじったら私そんなに強情じゃないわ。ママの方がもっとすごいわ」
「尊徳翁は自らの仕法には強情だった。細野という家来が訪ねた陣屋の中では尊徳のやり方が気に入らないといって協力しない者が続出していた。ところが細野が土産を届けたら手のひらを返したように仕法に従い始めたのだ」
「尊徳先生はどんなに苦労しても、やり方を曲げないなんて強情だというよりえらいよ」
「さつきもわかったかな。尊徳翁は自分の仕法は正しいという信念を持っていたんだ。さつきの云うとおりえらい人だよ」
 さつきは祖父に褒められたようで少しばかり気を良くし、顔から笑みが毀れた。
「さつきちゃん、スイカ食べる。よく冷えているわよ。今切ったから持って行くね」
 祖母が台所から声をかける。ちょうど祖父の話に区切りがついたところだった。
「じいじ、今の話は江戸時代でしょ。鶴氅は現実にあるって言ったけど、いったい今はどこにあるの」
「ここだよ。といっても、うちではなくて地元の俳人として名高い松島十湖様のところだ。
 時代は明治時代のことだ。
 白髪で白い顎鬚を長く垂らし、ロイド眼鏡をかけてずんぐりむっくりの俳句の宗匠さ」
「じいじ、このスイカ甘いよ。今年も豊作でした」
「さつきちゃんに褒められて、作ったじいじは嬉しいでしょ」
 祖母が笑いながら口を挟む。祖父は満足そうにスイカの種を口から噴出していた。
「それでは続きを話そうか」

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