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2023年3月 3日 (金)

鶴氅のゆくえー「尊徳の遺品」顛末記(3)

 すると祖母はさつきの納得顔を見て自慢そうに『鶴の恩返し』の民話を語り始めた。
 若いころは学校の教師だったせいか語り口は巧妙で感情も入っていた。
「こんな物語だったわね。どう、少しはオペラの筋書きと似ているかしら」
「うん、そうだね。ばあばは話がうまいわ」
 さつきは祖母の語りを聞きながら先日のオペラの物語を反芻していた。
「つうが自分の羽で機を織っている様子は痛々しかったなあ。世の中にはその反物を買う人がいるんだね」
「さつきちゃん、買うのは大きな商人さ。それを殿様に売ったりするんだ。沢山作れないからきっと高価なものに違いない」
 祖父は急に力説しはじめた。
「でも民話の中だけのことではなく、実は鶴の羽毛で作った反物は現実にあったらしい」
「えっ、それほんとなの。じいじ」
「郷土資料を調べていてね。記憶しているよ」
 今、祖父は郷土の歴史に熱中していた。定年退職後は自分の郷土を見直そうと、暇さえあれば地元の図書館へ足を運んでいた。
 祖父の町は浜松市北東部の街道に面しており、秋葉街道に繋がる交通の要所でもあった。
 町は木綿織物産業と共に昭和の初めまで栄えたが、戦後は織物景気も下火となり旧家も姿を消しつつあった。祖父は町がしだいに変貌していくのを憂い、日々郷土資料を紐解いていた。
「ところで学校の校庭に二宮金次郎の像が建っているのは知っているかな」
 話題を変えるように祖父はさつきに訊ねた。
「小学校の職員室の前にあるのだね。薪を背負い、歩きながら本を読んでいる子どもだわ」
「そうだね。銅像の人物は何を成し遂げたんだろう」
 さつきにとって祖父の質問は難しくはなかった。既に小学校でその像の意義についてはしっかり教えられていたからだ。

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