俳人十湖讃歌 第118回 東北漫遊(7)仙台
翌日は白木屋の言葉に甘えて予定を変更し松島へ向かう。
松島観月楼に三日間滞在して、松島を残りくまなく遊覧していた。
石倉の案内は上々の首尾であった。
友三人松に千歳の契りかなし
さらに海辺の海老屋に宿を換え、朝餉に出た魚を題に三人代わる代わる句を作った。
同行者の不安をよそに、至極呑気に周辺を見物した。
次の日仙台へ戻る。先日と同じ陸奥ホテルに泊まる。
元来酒好きな十湖は旅館に着けばすぐ酒だ。ぐびぐびと引っ掛けては気炎を吐く。
「酒の相手が居ないわい。わしの知り合いを呼んで来い。この近くのはずだ。旅館の者に聞けばわかるはずだ。一っ走り行って来い」
この日は酒が過ぎたのか記者の石倉に向かって命令した。
まるで小間使いのごとく扱われる始末に、石倉はとうとう怒り心頭に発する。
「僕は今回取材で同行して来ているんだ。これでもれっきとした著述家だ。十湖がどれくらいえらいか知らぬが俺に向かって小僧扱いや小間使いとしかみていない。馬鹿にするな。そんな命令をするなら今夜は宇都宮まで歩いて帰る」
石倉は立ち上がるなり、十湖の面に杯の酒を引っ掛け言い放した。
「ともかくも十湖翁は俳句の大先輩なのだから辛抱しろよ」
画家青木がなんとか仲裁に入ろうと石倉を別室に連れて行き、肩をたたきながらなだめた。
石倉が再び部屋へ戻ると、赤い顔をした十湖が徳利を掲げながら声を荒げた。
「呼んできたか」
石倉は十湖の強情に負けて、しかたなく呼びに行くことにした。
事前に来てくれるよう頼んであったのだが、松島へ行くことになり日程がずれてしまった。相手はもう忘れてしまっていたのだろう。連れてきたのは、この辺では名の知れた俳人の来仙という。
その夜は旅館で俳席を開くことになった。
三月だというのに名残の雪が降り出してきた。
俳席は大いに盛り上がった。
| 固定リンク | 0
「鈴木藤三郎」カテゴリの記事
- 俳人十湖讃歌 第122回 東北漫遊(11) 帰庵 (2023.09.09)
- 俳人十湖讃歌 第121回 東北漫遊(10) 十湖素裸体になる (2023.09.03)
- 俳人十湖讃歌 第119回 東北漫遊(8)毒舌説法 (2023.08.26)
- 俳人十湖讃歌 第120回 東北漫遊 (9) 子平墓前 (2023.08.31)
「12東北漫遊」カテゴリの記事
- 俳人十湖讃歌 第122回 東北漫遊(11) 帰庵 (2023.09.09)
- 俳人十湖讃歌 第121回 東北漫遊(10) 十湖素裸体になる (2023.09.03)
- 俳人十湖讃歌 第119回 東北漫遊(8)毒舌説法 (2023.08.26)
- 俳人十湖讃歌 第120回 東北漫遊 (9) 子平墓前 (2023.08.31)
「青木香葩(こうは)」カテゴリの記事
- 俳人十湖讃歌 第122回 東北漫遊(11) 帰庵 (2023.09.09)
- 俳人十湖讃歌 第121回 東北漫遊(10) 十湖素裸体になる (2023.09.03)
- 俳人十湖讃歌 第119回 東北漫遊(8)毒舌説法 (2023.08.26)
- 俳人十湖讃歌 第120回 東北漫遊 (9) 子平墓前 (2023.08.31)
- 俳人十湖讃歌 第118回 東北漫遊(7)仙台 (2023.08.23)
「石倉翠葉」カテゴリの記事
- 俳人の礼(15最終回) 第410回(2020.07.12)
- 俳人の礼(14) 第409回(2020.07.11)
- 俳人の礼(13) 第408回(2020.07.04)
- 俳人の礼(12) 第407回(2020.07.01)
- 俳人の礼(11) 第406回(2020.06.29)
コメント