俳人十湖讃歌 第117回 東北漫遊(6) 宇都宮
「明日からの行程ですが、一応確認をしておきたいと思います。社の方で示された内容を紹介します」
石倉は十湖の顔色を見ながら云った。さらに続けて
「今回の吟行は、仙台での句会と書画会での取材を中心とするもので、後日、新聞社の企画記事として扱う予定です。予算はここより仙台までの旅費及び宿泊費を社で負担します。いいにくいのですが、十湖宗匠が出向いてきているのをこれ幸いと社が便乗するようで申し訳ありません。社の示した範囲内の予算で行くのでご協力をお願いします」
石倉は恐縮して云いながら、行程表をポケットから取り出した。
「こちらでどうこう云うことではない。君に任せるよ。それより酒はまだかな」
別段異議なしと言わんばかりに十湖は、酒の催促をした。
酒が入ると青木は砕け話が弾んだ。
得意の画で節分の鬼を描くと、十湖がほめて自ら俳文を書こうという。なんやこれやで話は尽きず、一同夜を楽しく語り明かした。
夜明け方近くになって十湖は何かを思い出したように
「おい、今日は松島見物に行かないか。仙台まで行くのだからちょっと足を伸ばせばいい」
「社の予定は仙台市内です。行きたいのは山々だが、残念なことには我ら両人は貧しく贅沢な遊びをするほど金は持っていません」
石倉が怪訝な顔で返す。
「両人で三十円くらいはできよう。足らんところは自分が出すから、たのむ」
十湖は少し譲って、何としてでも行ける算段を掛け合った。
両人はどうしたものかと思案していたところ、
「こんなに朝早くからどうしたんですか」
白木屋の主人がやって来て、寝巻き姿の十湖に訊ねると
「今日は天気もよさそうだし、せっかくここまで来ているのだから芭蕉の足跡を訪ねてみたいと話していたところだ。」
白木屋は既に大きな声で三人が言い合っているのを聞いていたが、あえて記者の石倉に小声で尋ねた。
「宗匠が芭蕉の足跡を訪ねたいというけど、皆さんは否定的なのですね」
「実は取材の金は知れている。見物するほど社は金を出してはくれないし、まして自分たちで工面せよといわれても困ると言ったのだ」
石倉は白木屋の仲立ちで正直に会社の実情を話した。
「分かりました。それならせっかくここまで来たのですから、皆様ぜひお出かけなさい。旅費は私が全部持ちますから」
「それでは白木屋さんに迷惑がかかる」
石倉は遠慮する仕草をした。
「いやいや申し訳ない。それじゃあ、お言葉に甘えて行くことにしよう」
十湖はすかさず礼を云い、相談がまとまったことにして喜んだ。
春嬉し旅から旅のこの首途
まったくもって調子のよい十湖であった。
同行の二人は後の不安を感じながら顔を見合わせていたが。
この日のうちに宇都宮から仙台に移動。当初の予定どおり散策吟行する。泊まりは駅の近くの陸奥ホテルに決めていた。
仙台へ着けば
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