俳人十湖讃歌 第124回 二俣騒動(2)
蓮台から言われるまでもなく、十湖は二俣で起こっている事態は十分察知していた。
「先生、ぜひ助太刀をお願いしたいのですが」
蓮台は玄関からあがると畳に頭をすりつけ頼んだ。
「助太刀とは穏やかでない。自分が仲裁に出て行くべきか迷っていたところだった。たかが学校の建設であり両者の利害関係が、はっきりしているはずなのに。子供側の立てば両者で和解の道もあろうと思うのだが」
十湖が淡々と云う。
「それがそうならないのが世の常で、どこで狂ってしまったのか先が見えません。どうか紛争の収拾に乗り出してくれませんか。馬車を待たせてありますので」
蓮台はすかさず頼み込んだ。その顔には何が何でも連れて行くという意気込みがにじみ出ていた。
「話はわかった。どうせ、たいした用もない昨今だ。ひとつ骨を折ってみるか。蓮台の頼みとやらでは断わりもできんからのう」
蓮台の申し出にまんざらでもなさそうに、一つ返事で十湖は応諾した。
この時はまだ事の深刻さは理解していなかった。
十湖を乗せた馬車は、二俣の六ケ寺へやって来た。
すでに和尚が山門の前で待っていた。
「昨年春より二俣町の学校建設の土地問題がこじれまして、未だに収拾できずに困っております。朝早くから無理を云ってすみませんが、解決の糸口を見つけるため十湖宗匠の仲裁をお願いしたい」
和尚は馬車から降りる十湖に軽く会釈をした。
(現在の二俣の象徴である二俣城跡。かつて家康の子信康が居城していた)
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