俳人十湖讃歌 第128回 二俣騒動(6)
同じ頃二俣町内の街道筋は、数軒の居酒屋が軒を並べ提灯に明かりを点け始めていた。そのうちの一軒おかめやには数人の常連客が寄り、既に話が弾んでいた。
「この頃は賭場にも秋風が吹き出したのか、客も減り財布の紐も硬い」
「集まる顔ぶれがいつも一緒じゃ、あがりは知れている」
博奕打ちと見られる若造二人が手酌で飲みながら話している。
その様子を先輩面の男がじっと黙って聞いていたが、
「今に町内で大きな工事が始まれば県内外から人が集まる。そうすりゃ賭場も賑やかになるんだが」
先輩面の博奕打ちが杯を舐めながら口を出した。
「そうは云っても兄貴よお、今のところ何ら動きがない。面白くねえな」
若造の一人が応えた。
「だから俺たちは校舎の新築移転に肩入れしてるんだ。だが、どっちの町も引かんからこうなっちまう」
兄貴と呼ばれた男が不味そうな顔をして言い返した。
「いい加減に議会は決着しないのか。俺たちはどっちでもいい。早く解決してくれればそれで町は賑やかになる」
「そうだ。誰でもいいから双方の言い分の中に入って、仲裁すれば解決しそうだ」
若造の二人は酒の回りが速い。話がくどくなってきた様だ。
「いつだったか姉御が爺を連れてきたが、何とか云ったな、俳諧師で名が思い出せん。そいつが町議会へも大きな顔を出すそうだ」
「爺が来てもう一ヶ月近くになる。俺の知っている範囲では議長にも顔が利くらしく、なかなかの野郎だそうだ。だが、相変わらず両者の考え方に隔たりがあり、こう着状態のようだ。毎晩、タダ酒をあおっているとのうわさだ」
兄貴が若造らに知ったかぶりの噂話を手振りを交えて話していた。
(現在の二俣裏通り)
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