俳人十湖讃歌 第130回 二俣騒動(8)
蓮台とは子供のときからの知り合いである。今回の学校土地問題でも蓮台と同様北部側に属していた。
今宵は連れの若造らと博奕打ちのあがりで酒を飲んでいたが、話が未だに解決しない学校問題に触れたことで自棄酒になってしまった。
そんな時、折り悪く十湖らが店先を通りかかってしまったのだ。
「何だ、姉御も一緒か。それじゃしょうがない。今夜のところは姉御の顔に免じて見逃してやろう。だが、問題の解決もしないのに、いつまでも二俣の町を歩かれちゃあ俺の立場もない。十湖先生よう、ここはひとつ賭けをしないか。もしあんたがこの件を仲介して解決させたならほうびに三十円をやろう。それを持ってとっととこの町をうせろ。だがよ、できなかった場合は俺にきっちり三十円よこせ。町の者みんなに手を突き、謝ってこの町を出て行け。期限は年内中だ」
河童に仕立てられた清助は、酒の勢いを借りて一気にまくし立てた。
「清助とやらの云うことはわかった、約束しよう。乗りかかった船だ、いずれにしても解決せねばならんことだからのう。それに三十円の礼金までくれるとあっては、こんな美味い話はない」
酔いが覚めかかっていた十湖は鼻で笑った。 月が変わり十一月二日、町議会に何度も顔を出し、口入をする十湖の姿があった。
議長は十湖の提案には前向きで、議長室を訪ねればお茶の接待があり充分時間を潰した。
だが議員の側は一向に十湖案を検討する兆しはなく、もはやこれまでかと十湖は諦めかけた。
北部も南部も住民側は手をうてる事は全てやってきている。
それにも増して風評やらで外部からの人間が入り込み、住民等を煽っていることが十湖には癪に障った。
これまで十湖が双方の聞き込みや調整の中で知ったことは、二俣は全町民を巻き込み、町は南北に分裂して学童不在の校地騒動に発展してしまったということだった。
南部町民(金谷派)は杉浦亀吉ら四名が代表し、町民四百三十人の署名を集めて請願書を町当局に提出したら、北部議員も負けじとばかりに皆原案を支持する町民らと一緒になって同じ事を展開する。正に泥仕合の様相となってしまった。
(鹿島の田代家住宅)
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