俳人十湖讃歌 第140回 活命料(7)
一台の人力車と荷を積んだ大八車が横付けされた。
「何事か」
十湖はそう云うと、自ら玄関まで廊下を足早に行く。
玄関に控えていたのは、他でもない天竜二俣の女流俳人烏帽子園蓮台と、博奕打ちの清助だった。
正月用に頭を整えた晴れ着姿の蓮台が、人力車から降りると開口一番早口で言った。
「二俣の騒動ではいろいろお世話になりました。今日は郡長と銀行頭取からのお届けものです。勿論、私たちからの分も含めての、いわば年末支援物資です」
「そうか、それはありがたい」
色気たっぷりの蓮台の着物姿に見とれながら、十湖は大八車に向かい、清助に荷紐を解かせた。
荷台には薦被りの酒一樽,味噌樽、撞きたての餅、塩鮭、鮎の乾物、それに炭俵までが積まれていた。
「暮れにこちら様から活命料名目の寄付のお願いが届いたけど、私らも同様金欠病です。それで二俣の銀行頭取にその旨話したら、郡長様まで話が行き、用立ててくれました。あの時の御礼にしては少なすぎるが気持ちだと伝えてくれと郡長様がおっしゃって、こうしてお届けに至ったというわけですよ。持つものは友です。ね、十湖様、宗匠」
蓮台が調子良く喋っている。
横から清助が俺にも言わせよと言わんばかりの眼で、鼻の下を撫でながら口を出す。
「宗匠も頭は良くても金には弱いか。まあいいや、とりあえず二俣の借りは返した」
と大見得を切ると、蓮台が肘で清助の脇腹を突きながら
「何を威張ってんだよ。お前さんは十湖様に負けたんではないのかい。賭けた金まで巻き上げられてさあ」
「あの時はあれで決着済みだ。事態を解決してくれたんだからな。俺は宗匠にその解決手段を教えて貰ったからその借りを今回労働で返したのさ」
清助はきっぱりと蓮台に言い返した。(次回へ続く)
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