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2024年3月 2日 (土)

俳人十湖讃歌 第152回 姨捨紀行(5)

 なかなか立派な門構えである。十湖の住む中善地の村にはこんなでかい家はない。
 門をくぐって庭に入り声をかけた。
 中から面高だが気品のある表情をした婦人がニコニコしながら出てきた。
「遠州浜松から来た松島十湖です。ご主人にお会いしたい」
 十湖は酒に酔っているのを悟られぬよう、毅然とした態度で訪問の理由を述べ面会を求めた
「遠いところをわざわざお越しいただき、あいにくですが主人今朝三郎は不在でございます」
 丁重に婦人は挨拶をした。そのうえで一言添えた。
「たとえどんな御用でも、酒に酔って訪ねて来るなど言語道断です。主人には訪ねてきたことを伝えますので、本日はお引き取りください」
 あの気品のある婦人から出た言葉とは思えないほど厳しい叱責だった。十湖は一気に血が引き、酔いが醒めていくようだった。
 肩を落として馬車に戻る。
「旦那、言ったとおりでしょう。まあ仕方がないや、今度はゆっくり寝ていって下さい」
 車夫に慰められはしたが、さて今晩はこのまま帰庵できるはずもなし、車上で思案に暮れる十湖であった。
 懐から酒瓶を取り出し残りの酒を一気に飲み干した。馬車は再び元来た方向へ走り去って行った。

「師匠起きてください。乗り換えですよ」
 列車内で夢ごごちの十湖は、閑里が声をかけ自分の体をゆすり起こそうとしているのがぼんやり聞こえてきた。
「もう篠ノ井へ着いたのかな」
 十湖は大きなあくびをして背を伸ばすと、閑里に背を押されて汽車を降りた。
 初夏の陽は真上にある。一行は乗り換えて篠ノ井線を横川方面へと向かった。
 予定では確氷峠の熊の平まで行って再び長野姨捨へ戻って来るつもりである。
 碓氷第三橋梁は「めがね橋」という名称で知られており、碓氷川に架かる煉瓦造りの四連アーチ橋は碓氷峠の代表的な建造物である。
 国鉄信越本線横川駅 - 軽井沢駅間の橋梁の一つとされアプト式鉄道で見ることができる。
 一行は吟行することも忘れ、この橋に見入ってしまっていた。

  折て来て見する車掌やはつもみち

 

 

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