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2024年3月16日 (土)

俳人十湖讃歌 第157回 姨捨紀行(10)

   今回の旅は、言うまでもなく欽采からの招待によるものだ。
 招待の手紙には欽采からの悩みが付け加えられていた。十湖は招待に応ずるかどうかと言う前に欽采への悩みに答えて手紙で返していた。
 欽采は便りの中でこう綴っていた。
 ――今年の春先に、働き手が少なく自ら家業である農業が忙しくなった。そのため俳句を作る暇も、画を描く暇もない。まして本を読むなんてできない。家を出てしまえば自らの発句も画も自由に描けるのに
 と言う内容のものだった。
 これに対し十湖の返事は
 ――俳句も大切だが、それ以上に家業も大切だ。家業を大切にする俳諧だと思うべし
 と忠告していた。手紙の末尾には十湖の句をふたつ添えた。

  色も香も嬉しきものは新茶かな
  川中によき村ありて夏木立

 十湖からの返事は欽采の迷える気持ちを揺るがしたようだった。
 それから一ヵ月後、再び十湖は欽采宛に手紙を出し、欽采の招きに気持ちを改めて応じたのだった。まったくもって清々しい想いでの旅立ちとなった。
 今こうして来てみれば、家族全員で暖かく迎えてくれていることに感謝した。 
 同行のひとり閑里は小柄だがよく食べる。
 朝餉の広間には彼のたくわんを噛む音がいつまでも響いていた。
 月内はこの地に逗留し、句会を開き地域の俳人等と交流した。
 月が替わり明治三十八年十月、再び長野善光寺前の旅館犀北館へ移り、連歌を巻いたりして句会を開催した。
 犀北館からの眺めは、鷲尾山が良く見え十湖は気に入っていた。山は秋の気配を感じさせ、夕照に輝く風景は十湖に発句を促した。

  手にとれば矢の根石なり夕紅葉

Knsai01

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