俳人十湖讃歌 第163回 芭蕉忌(1)
昭和十一年東京の市立サナトリウムの病室では、鷹野弥三郎が妻つぎを見舞いし、お互いの過去の出来事を紡いでいた。
「僕は君に出会う前は義父のところによく足を運んでいたが、そのたびに君との出会いが何度となくあったね」
弥三郎は、つぎの顔色を見ながら話しだした。
つぎは未だに鷹野との出会いが結婚に結び付くとは思っていなかったらしい。
結婚に至るその年、弥三郎は最後の取材で十湖宅を訪問することになっていた。
「最初から俳諧の手法を訊ねようと意図しながらの訪問だったが、義父には見抜かれてしまい、挙句に四、五日も庵に滞在してしまったよ。おかげで句会にまで顔をだすことができたのさ」
「私は俳句のことは知らなかったし興味がなかったわ。でもあなたにとっては貴重な体験だったのね」
再び弥三郎は当時の模様を反芻していた。

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