俳人十湖讃歌 第165回 芭蕉忌(3)
明治四十年十一月、体調がすぐれぬ鷹野弥三郎(俳号柏葉)だったが、老体に鞭打って閑詠自適を貫き俳句の選評に忙しい十湖を思えば、訪問することが自分の慰めになると足を向けた。
汽車を天竜川駅で降り市野町を経て中善地に向かう。まだ陽が傾くまでには時間があった。
十湖宅の玄関を入り奥に向かって「ごめん下さい。柏葉です」
と大きな声をかけると、その家の主十湖自身が出てきた。
「来たか。まあ上がれ」とそっけない返事。
家の中には妻も弟子の姿もない。どうしたものかと思案していると書斎へ通され着物姿のままの十湖が
「遠方よりよく来てくれた。ごくろうだったな」
柏葉はすかさず恐縮しながら
「お忙しいところわざわざ時間をとっていただき、すみませんでした」
と切り出し、早速、訪問の要件を説明した。

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