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2024年5月 7日 (火)

俳人十湖讃歌 第171回 養女つぎ(3)

「ごめんください」
 着物姿に子供をおんぶして、左手に風呂敷包みを提げたつぎが声をかけた。
「まあ、遠いところを大変だったでしょ。赤ちゃんを連れてでは。さあ、上がって頂戴な」
 玄関先から妻佐乃の来客を迎え入れる甲高いが優しい言葉使いが聞こえてきた。
 十湖は奥の間に控え身支度を整えた。
 直接、つぎ本人に会うのは今日がはじめてである。
 廊下伝いにせわしなく案内する妻佐乃の声が近づいて来る。正座をして奥の書院に控えた十湖の耳に届いてきた。
 はじめてみるつぎの顔は色白く、輝いているようだ。
 つぎは、養父に会ったら何から話せば良いのか迷っていた。
「はじめてお目にかかります。この度はいろいろご迷惑をかけてすみませんでした」
 つぎが、ぺこっと頭を下げた仕草があどけなかった。
 そのとき生後四ヶ月に満たない赤子の顔がつぎの懐からみえた。
「 長男の正弥です。一月に生まれました。おかげさまで健やかに育っています」
 十湖は幼子の顔を覗き込み、自分の指をその頬に当て
「正弥か良い名だ。可愛いのう」
 厳めしいはずの十湖の顔が、何時しか目尻は下がり、好々爺になっていた。
「奇人ではなかった」
 世間では奇人変人だと呼ばれている十湖の事を聞いていたので、実物の印象が違っていたことに胸を撫で下ろし、顔に笑みが浮かんだつぎだった。
 はじめて十湖の顔を見た時は、義父が師父という感じで少し怖かったと後に自著で回想しているが、話してみると人懐っこく十分理解しあえる義父だとしだいに心を許していった。

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