俳人十湖讃歌 第200回 十湖の事件帳(9)
八重は別に悪いことはしていないから名を変えている必要がない。
十湖は、この二人が木崎と八重にちがいないと確信していた。
警察へ行けば全てがわかる。・・・
句会は総勢ハ人程度で夜半まで盛り上がった。
明くる朝、十湖は警察へ向かった。
受付で事情を説明したところ当日の警察関係者と面会することができた。
面会した警官は人が良さそうな性格で、四十がらみの大柄な男であった。
「本官が男の持ち物を調べてみると、決して不審者とは思われないので、すぐにも釈放しようとしたのですが、今晩のねぐらも決めていないという。外は雪がひどくなるばかりで、本人のたっての希望によりしぶしぶ一晩警察で保護したのであります」
「その男ですが、木崎と名乗りませんでしたかな。画家のはずですが」
「よく分かりましたね。そのとおりです。画材道具を持っており、これから京都に勉強に行くと云ってました」
「わしは浜松に住む俳諧師松島十湖です。先日この男が死んだと新聞報道があって、その真相を知りたくてここまで来たのだが、手掛かりが見つかって良かった。警察のご協力に感謝します」
警官は驚いて
「 とてもそんな死ぬような様子はなかったですが、そうそう、本官は木崎が旅立つとき頼まれたことがありました」
といって警官は空を仰ぎ、頭を掻きながらその日のことを仔細に十湖に語り始めた。
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