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2025年2月14日 (金)

俳人十湖讃歌 第224回 再会(2)

 二日後、京都より枯魚堂嵐更宗匠が草庵に来る。
 庵には門人常春老人が奇遇中で十湖の代わりに出迎えた。
「道中はいかがでしたかな」
と常春老人が聞くと
「弁天島は絶景でした。魂を奪われましたよ」
 と嵐更は称賛した。
 浜松駅で下車後は軽便笠井行に乗り換え、笠井へ到着してからは人力車で十湖の庵を訪問することになったらしい。
 十湖と面会後、既に正午になり歓迎の昼食を出す。
 食事も半ばを過ぎたころ十湖は台所に酒肴の用意をせよと指示し
「それじゃ、これから天竜河畔の風光を紹介するので皆で出よう」
といいいだした。
 当日の模様は後日枯魚堂が書き記していた。
 
 ――春の日ながら蝉の声する松林を過ぎ、小流の橋を渡り、里道を抜け河畔に辿りつく。河はさすがに著名の大流、帆を張りて上がる船、筏を連ねて下る木材、悠然として大景を成す。快晴ならば対岸左方に富士の雄姿を認め得べしと聞く。そのうえに酒盃を重ねつつ雅談数刻にして帰る。夕餉又酒盃を交換しつつ常設の揮毫場にてそれぞれ一句ずつ書き付けたり

  朝酒をひらく庵りの牡丹かな   常春
  山吹や師に相応しき古土蔵    応声
 主の翁過る日伊賀柘植の里に遊び足りとて祖翁遺跡の一句を示さる
  いざ汲まん産湯の井戸の春の水  十湖
 予もまた大撫庵の所為一句なかるべからずと折節庭園の牡丹花盛りなりければ
  世の中の垣は許さぬ牡丹かな   嵐更

 十湖の庵での日常風景をそのまま嵐更宗匠が書き綴ったもので、彼らの俳諧行動こそが月並宗匠といわれる所以でもあろう。
 だが十湖にしてみれば、ここにこそ風雅の極みがあるというのである。

Tunryu_2              (当時の天竜川)

 

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