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2026年2月25日 (水)

上山田温泉湯煙談義 ー歌人河合象子への回想(上)ー

 明治38年10月末日、十湖一行は門弟である長野の瀬在欽采の招きで戸隠に逗留して、句会を催しその帰路にあった。
 周囲の山々が紅葉で一段と冴えわたる上山田温泉には、夕暮れ前一行4人の俳人の声が湯殿に響き渡っている。
 最も若い弟子の閑里が出洗いをしながら
「今回の旅は天気も良く料理もうまいし、よかったですね。また是非同行したいなあ」
 はしゃいだ口調で随処の方を見た。すると側にいた随処が手拭いで顔をぬぐいながら一言付けたした。
「欽采さんはわしよりも若いのに心配りが行き届いていたな。閑里お前も食うだけじゃあなく少しは見習えよ」
 気持ちよさそうに湯に浸っているのは十湖と成佳だ。
「宗匠、連句も楽しかったですね。わしは欽采家の絹作り全国表彰を祝って詠んだやつですが、これで内川の衆と仲良く出来ました」
 同行者の中堅弟子名倉成佳がお湯を肩に掛けながら十湖に自慢そうに言った。
「おまえは入門して既に13年になるが、最近では弟子の中でもいい句を詠んでいるな。確かに連句会ではなかなか弾けていたしなあ」
 十湖が滅多に褒めたりすることはないのだが、酒の力も借りて言わせている。
 成佳にとっては褒められて満更でもなく、手で掬った湯を頭に被った。
「ことば選びもうまかったが、句に抑揚がある。まるで和歌を詠んでいるような」
 十湖にここまで褒めちぎられては応えないわけにはいかないと
「ご存知のように私は引佐郡気賀の生まれですが、師匠の弟子になる前はちょっとばかり和歌をかじっていまして、その和歌の師匠がいなくなるまで続けていました」
「なるほどのう。やはりその嗜みがあったか。なんでも知識を得ることは句にも深みが出てくるようだ」
「あんまり褒めちゃいけません。図に乗ってしまいますから」
 成佳は少し口を滑べらしてしまったが、十湖が気賀の和歌に興味を持ったらしく、湯から上がって部屋へ戻ってからも成佳に訊ねてきた。

 

上山田温泉 当時十湖一行が泊まった宿

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