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2026年3月 2日 (月)

上山田温泉湯煙談義(歌人河合象子の回想(下)

 再び上山田温泉の1室である。夕餉も済んで俳人4人は団欒を楽しんでいた。
 といっても十湖の提案で再び酒を酌み交わしている。
「宗匠、酒はもう止めにしましょう。いつもの癖が出ますから」
 十湖に向かってこんな口が叩けるのは随処しかいない。随処は苦虫をつぶしたような顔をして睨んでいる。
「成佳の話もよくわかったから今晩はここまでに」
 と、成佳に顔を向き直し随処が仕切りなおすが、十湖はおもしろくない。
「おい成佳、結局お前は象子様が上京していなくなったので、和歌をやめてわしのところに入門したというわけだな。それにしてもわしが一度会っているとは知らなかった」
「仰せのとおりです。もう少し私の話を聞いてください」
 といって茶を一口含んで、また成佳が話を続けた。
「私は気賀の五味の名倉家で瓦屋を営んでいましたので、中村家とは昵懇の間柄です。それに雑俳の取次は本陣の与太夫様がやっており、俳諧の集まりやら和歌の遊びはその宿でやっておりました。後で中村家から聞いた話ですが、このころ象子様が東京へ出たのは、和歌の師匠のお世話があったからだそうです。」
「それにしても、お前の和歌の師匠河合象子とやらは随分と波乱に富んだ人生じゃなあ」
 十湖は腕組をして真顔で自分の想いをめぐらしていた。
 成佳は頷きながら指折り数えていた。自分の歳ではなくて象子の年齢である。
「もしも、上京した象子様が今もってご健在であれば70歳ですね。音信がないわけではありませんから和歌の世界でも活躍していることでしょう」
 成佳の話に十湖は疲れたらしく、その夜は静かに眠りに入っていった。

Kamiyamadaonsen_20211210141201
(上山田温泉の十湖の句碑:宿の湯に延ばす命や千代の秋 明治38年10月30日吟行中に詠んだ句)

 

 

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