22十湖の事件帳

興津駅付近で知り合いの墜落死亡の記事。これは事故かそれとも自殺か。十湖は真相究明することに。

2024年10月20日 (日)

俳人十湖讃歌 第202回 十湖の事件帳(最終回)

 蝉の声が降りしきる八月三十一日午前九時、十湖の菩提寺である源長院において木崎画伯の大法会を開いた。
 本堂に集まった参会者は百余名におよび鈴木笠井町長や高林豊西村村長の姿もあった。
 受付には参会者の奉賀帳が置かれ記念品が用意されており、故木崎画伯の遺墨、遺作も陳列し、画帳もそこに展示されていた。
 追悼法会の席上、十湖は弔辞をよみ故人の逸話を追懐していた。 
 受付係の男が十湖の弔辞に見いっているときであった。
 突然、スーと風のように白袴の青年が現れ、展示されていた画帳を懐に入れ門外へ消えた。
 一瞬の出来事だったので受付係は気がつかなかったらしい。
 参会者が木崎の思い出を振り返りながら会はしめやかに進行し、夕刻には散会した。
 十湖は参会者の去った本堂に佇み、西の空がいつしか真っ赤な落日になっていくのを見送っていた。
 次の日の朝、いつものように縁側に降り立ち新聞を取りにいく十湖の姿があった。 
 大きなあくびをして庭で新聞を広げ昨日の記事を貪り読む。
 木崎の法会には新聞記者や報道関係者だけでも七十人ほど集まっていた。それだけに今朝の記事は各紙に載っているはずだった。
 ある地方紙の隅に
 ――木崎画伯の追悼法会で画帳紛失。不心得な参会者か盗人か
 と小さな見出しの記事があった。
 十湖はこんなことがあったとは知らなかったが、今更問題にするようなことではないと他の記事を読み進めていた。
 夏の早朝とはいえ太陽が顔を出せば暑い。新聞を読み終えて邸の中へ足を向けたそのときだった。
一陣のさわやかな風が十湖の頬をなでるようにして過ぎていった。
 十湖がいなくなった縁側には、大法会のとき無くなったはずの画帳が、いつの間にか朝の陽を受けている。風がページをめくると八重と一緒にいる木崎の似顔絵が描かれていた。

 この日、十湖の日記帳である「随筆」には、切り抜いた木崎の新聞記事が所狭しと張られ、恰も事件帳である如く克明に画伯死亡の詳細が綴られていた。(完)Sinnbunkirinuki01_20241008155801

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2024年10月19日 (土)

俳人十湖讃歌 第201回 十湖の事件帳(10)

 木崎は油屋旅館で仲居として働いている八重という女に、後生だから、この風呂敷包みをわたして欲しい。中には封筒と画帳が入っているという。警官は封筒の中身を木崎に聞いたところ便箋と僅かな金だった。
 それだけ云うと木崎は警察を出ていった。
 すると、まるでそれを待っていたかのように八重が入ってきた。
「こちらに木崎さんが保護されていると聞いたんですけど」
「さっきまでここにいたよ。今出て行ったばかりだ。君に渡してくれと頼まれたものがある」
 そう言って警官は机のわきに置かれた紫色の風呂敷包みを八重に手渡した。
 八重は風呂敷包みを解くなり画帳を見つけて、木崎のものに違いないと警官に礼を言って外へ出た。
 警察署の前の道は昨夜来の雪で真っ白くなっている。朝が早いせいか人通りもなく足跡も少ない。
 その中に真新しい靴跡が点々と駅方面へと向っていた。
 八重は木崎から預かった風呂敷包みを大事そうに抱えながらその跡に従った。
 八重の下駄の跡は恰も木崎の足跡に寄り添うように残っていく。
 だが止んでいた雪が突然吹雪に変わり、風が着物の裾を袂を煽る。
 顔をあげられないままに駅へ向かって駆けた。
 ――会えれば良いのに、駅で待っててくれれば良いのに
と一縷の望みを託しながら八重の足取りは早まった。
 そのとたん、プチッと片方の下駄の鼻緒が切れた。
 吹雪は容赦なく八重が追う木崎の足跡を消していってしまった。

 

Hokkokukaidou04

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2024年10月16日 (水)

俳人十湖讃歌 第200回 十湖の事件帳(9)

 八重は別に悪いことはしていないから名を変えている必要がない。
 十湖は、この二人が木崎と八重にちがいないと確信していた。
  警察へ行けば全てがわかる。・・・

 句会は総勢ハ人程度で夜半まで盛り上がった。
 明くる朝、十湖は警察へ向かった。
 受付で事情を説明したところ当日の警察関係者と面会することができた。
 面会した警官は人が良さそうな性格で、四十がらみの大柄な男であった。
「本官が男の持ち物を調べてみると、決して不審者とは思われないので、すぐにも釈放しようとしたのですが、今晩のねぐらも決めていないという。外は雪がひどくなるばかりで、本人のたっての希望によりしぶしぶ一晩警察で保護したのであります」
「その男ですが、木崎と名乗りませんでしたかな。画家のはずですが」
「よく分かりましたね。そのとおりです。画材道具を持っており、これから京都に勉強に行くと云ってました」
「わしは浜松に住む俳諧師松島十湖です。先日この男が死んだと新聞報道があって、その真相を知りたくてここまで来たのだが、手掛かりが見つかって良かった。警察のご協力に感謝します」
 警官は驚いて
「 とてもそんな死ぬような様子はなかったですが、そうそう、本官は木崎が旅立つとき頼まれたことがありました」
といって警官は空を仰ぎ、頭を掻きながらその日のことを仔細に十湖に語り始めた。

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2024年10月13日 (日)

俳人十湖讃歌 第199回 十湖の事件帳(8)

 その夜、地元俳人が八人ほど集まり夕食をともにした。
大主は顔色もよく八十歳を超えたというのに、ますます盛んな身振りに会場は盛り上がった。
 女中からお茶が入ったところで、十湖は大主にさりげなく尋ねてみた。
「この旅館は、随分と年季ものですなあ。よく句会で利用されるんですかな」
「うーむ、ここは江戸時代に遊郭があったところで、その名残が今でも残っている。なかでもここが老舗中の老舗じゃ。ここでやると人がよく集まるでのう」
 といって気持ち良さそうに笑みを返した大主だった。
「そう言えば雪が降った二月の日にちは忘れたが、今日と同じく句会を開いていた時、この旅館で妙な事があった。出入りする客は旅人が多く伊勢参りを目的としている様子のものが多い中、この日はなぜか単身者が多かった。階下で大きな声がするので覗いてみると若い男が一人、警官にしょっ引かれていった」
「その男が何か悪いことでもしたのですかな」
「いや、そうではない。朝から何度も旅館前を彷徨っていたので、不信に思った宿泊客が警官を呼んだらしい」
 と大主に代わって主客の坊主頭の俳人が横から口を出した。
「詳しい理由はわからないので、警察で聞いてみれば真相がわかるでしょ。男は画帳のようなものを持っていて、おとなしく警官に従っていたですが」
 隣に座っていた別の男が話を繋いだ。
 大主が妙なことだと言ったのは、翌朝に自分の身の回りの世話をしていた仲居が、この話を聞いて旅館を飛び出して行ったのだった。
 十湖は大主の話に身を乗り出して
「仲居の名前はご存知ですか」
「本名かどうかは知らんが、やえと名乗っていたようだ」

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2024年10月10日 (木)

俳人十湖讃歌 第198回 十湖の事件帳(7)

「そんなことはどうでもいい。八重と木崎には何か変わったことはなかったかと聞いてるんだ」
 まだるっこいひでの話に少し苛立った。
「あの子は、誰にでも親切に接するから恨まれることはないし、木崎さんが長く逗留していたから仲良くはなったけどね」
「まあ、よくある話だ。すると木崎が八重を追っかけて行ったとも考えられる」
 十湖は一人納得をしていたが、ひではすこし怪訝な顔をして
「十湖様悪いわね。あまり役に立たなくて、もう仕事をしなくちゃあね」
 と十湖の顔色を窺いながら頭を軽く下げた。
 十湖は自宅への道をたどりながら、この真相を知るためには八重に会うのが一番の早道だと思った。思い立ったらきかない十湖は、口実をつけて伊勢へ行ってみようと考えていた。
 翌日、十湖は既に車中の人だった。
 伊勢には自分の門弟がたくさんいる。誰を訪ねても快く泊めてくれる。
 今回は目的が違うので俳人仲間のところに腰を降ろし、一応句会を催すことで木崎と八重の情報が収集できることを期待していたのだった。
 伊勢神宮前まできたところで地元俳人大主耕雨を訪ねた。
 大主から今晩市内の油屋旅館で句会を開くので、宿泊はそこにしたらどうかと勧められ、二つ返事で決めた十湖だった。

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2024年10月 1日 (火)

俳人十湖讃歌 第197回 十湖の事件帳(6)

 木崎に少しでも滞在費の足しにと画会を開いてやったこともあった。
 若いのに言葉使いが丁寧で参会者からは親しまれていたようだった。
 今回の事件は、そんな男が何の不足があって自殺を願望するのか十湖には理解できなかった。
 東京にある木崎の実家にも連絡した。
 既に地元の警察から連絡が入り、死体を確認後、東京で画家仲間が集まって追悼式を挙げる手はずになっているという。
 十湖は中善地でも供養をしないわけにはいかないと地元の俳人仲間や俳句の協力者に声をかけ、地元の寺で追悼会を開くことを決めた。
 死因こそ迷宮入りだが、十湖には彼が自殺ではないと確信しており不慮の事故であったことが悔しくて仕方がなかった。
 木崎の死について十湖は合点がいかなかった。
 旅館の女将の話では自殺する理由が見当たらない。
 女将のひでをもう一度訪ねてみた。
 廊下で掃除をしているらしく頭に白い手拭いを被っていた。
「そう言えば木崎さんがうちに宿泊していた時、仲居女中の八重がいたけど、八重に聞けば、もう少し事情がわかるでしょうね」
 ひでは被っていた手拭いを取りながら、十湖に穏やかに話した。
「その八重が今どうしているか、女将は知っているのか」
 十湖の声は大きく廊下に響いた。
「木崎さんが京都へいくと言った時には既にここをやめていて、伊勢へ仕事を探しに行くと言っていましたっけ」
「伊勢へ行ったか。伊勢からの便りはあったのか」
「ここを出てからは何の便りもないわね。あの子は少し変わっていたところもあったけど。気だてのいい子だったから、きっと幸せに暮らしているのではないかしら。便りがないのはいい便りっていうでしょ」
女将のひでは自慢そうに十湖に答えた。

(笠井街道沿いのかつての商家)
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2024年9月27日 (金)

俳人十湖讃歌 第196回 十湖の事件帳(5)

 列車の車掌が車内で木崎を見た時の様子では、身なりも良く到底自殺するような人物には見えなかったという。
 十湖には木崎が自殺する動機が見えてこなかった。
 しかし、とるものもとりあえず東京の実家へ連絡すること、そして未だに身元不明の事件となっていることに対し、真相を明らかにするべく新聞社に連絡しようと思った。
 十湖が今できる精一杯の行動であった。
 十湖は女将ひでの話を思い出しながら、列車から転落したのは木崎であると確信していた。
 自宅へ戻るなり急いで新聞社へ電話をした。
「今朝の画伯転落事故の記事だが、意識不明とあり、まだ氏名が公表されていないが、東京の木崎九皐画伯ではないか」
 と伝えた。
 新聞社ではもっと詳しく説明してほしいというので、ひでの話したことを完結に説明し、木崎は有望な青年画家であったと付け加えた。
 受話器をそっと戻したとき、十湖の目頭があつくなった。短い日々であったが木崎が初めて豊西町中善地の十湖の元を訪れた頃のことを思い出していた。
 木崎が来たのは一年前の大正三年十一月初頭である。
 暦では夏はとうに過ぎ去っていたのだが、残暑がいつまでも留まり秋には程遠い感じがした。
 その月の初めから信州の俳人春雄翁が客人として十湖に招かれて滞在していたが、自分は忙しいからとある日木崎に天竜川までの案内を頼んだことがある。そのときは木崎が快く対応して、初めて会った翁にもかかわらず、二人は意気投合して邸へ戻ってきた。
 木崎には違った魅力があるのだなあと感心した。

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(昭和50年当時の十湖池付近)

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2024年9月23日 (月)

俳人十湖讃歌 第195回 十湖の事件帳(4)

 ひでは十湖の怒り口調に押されて
「ほら、十湖様のいつもの癖が出た、そんなにきつく責めないでおくれ。私のせいじゃないからさ」
 ひでは悪顔をして言い返した。
 十湖の性格を知っているひでにとって、十湖との会話は極力言葉使いに気を使って話す。今日の十湖の口調は自分本位できつく、ひではうんざりしていた。
 それでも気を取り直して、ひでは声を低めてこれまでの経過を話した。
 ひでの言うことをまとめると、木崎は二月にここを発つまでは宗匠の厚意に甘んじていたが、関西を旅しながら古美術に触れてくると、ほんとうの日本の美を知ることができた。十湖のもとでの体験を通し、よい機会を与えて貰ったと喜んでいたという。7月になり東京へそのまま帰る予定であったが、ぜひもう一度浜松へ立ち寄りお礼を言って行きたいと下車したらしい。だが、あまりに久々で心が高ぶっていたらしく、ひでにはその言動、行動が異常に思えたのだろう。木崎を医者に診てもらったところ、神経衰弱だといわれ薬をもらってきたという。木崎が浜松を出発する前日、ひで等に向かって
「自分は到底画家では飯を食っていけない。自殺でもすれば清々する」
 と口走り、二、三日経ったらこの手紙を東京へ送ってくれと見せた。
 ひで等家人は色々と慰めたが木崎は翌日出発してしまった。
 ひでは木崎に関する情報を多分に持っていた。
 十湖はひでの話を聞いて一連の経過は理解できたようだ。
 しかし木崎のとった行動には不審な点がいくつか残った。
 自殺をしようと思っている人間が、なぜ列車の中で丁寧なスケッチを画く必要があったのか。
 遺書めいた手紙を女中に見せたというが、再びしまいこんでしまったことは自殺が本位ではなかったのではないか。

 

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2024年9月16日 (月)

俳人十湖讃歌 第194回 十湖の事件帳(3)

 着替えを済ませた十湖は急いで小野田屋へと走った。
 67歳とはいえ腰はかくしゃくとしている。少しくらいのことなら早走りは気にならない。
 小野田屋は豊西町の旅館で、木崎が笠井にいたとき身を寄せていた。十湖の邸からは眼と鼻の先だ。
 「おーいいるか。わしだあ、十湖だ。聞きたいことがある」
 といいながら、下駄を脱いだ素足は旅館の廊下にあった。
 出てきた旅館の女将ひでに、十湖は手にした新聞を見せるなり
 「これは木崎に間違いないか。確かめてくれ」
 といって持っていた新聞を差し出した。
 女将はその記事を一語一語噛み締めるように読んいる。いらいらしながらそばに立っている十湖の様子を伺いながらも女将は
「35,6歳の男で車中で酒を飲み室外の風景を写生して誤って墜落せしものとあるわね。年恰好といい、画家といい木崎先生に似ているわ。それに着ているものがあのときと同じ」
 とうなずきながら応えた。
 女将は十湖の苛立ちが収まるのを待って、話を続けた。
「関西方面へ旅立つと云ってここを発った二月は元気がよかったねえ。でも先月京都辺りからふらりと戻ってきてね。ちょっと話し方が尋常でなかったので近くの中安医院に診察に連れて行ったわ。本人はおとなしく従ったけどね」
「それで事故当日の服装と同じだったというわけか。木崎は何だって七月二十五日に浜松に現れたのか。何の用があったのだ。わしには内緒で」
 十湖は怪訝な顔でひでを見た。

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(当時の新聞記事切り抜き)

 

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2024年9月11日 (水)

俳人十湖讃歌 第193回 十湖の事件帳(2)

 脳裏から離れなかった「画家風の男」とは。十湖は朝餉の蜆の味噌汁をすすりながら考えていた。
 お櫃の傍にいる2歳年下の妻の佐乃が、いつもと違う十湖の様子をみて、心配そうに小さな声でそっと
「おかわりはいかがですか」
 と声をかけた。
 その声が引き金となったのか、はっとして十湖はさっきまで読んでいた新聞を引き寄せ、箸を持ったまま忙しく新聞をめくり、社会面の列車墜落事故の記事を繰り返し読んだ。
 十湖は長く垂れた白髭が新聞にかかって邪魔らしく時折首を振った。
 と突然、新聞を持って佐乃に食って掛かるような声を発した。
 「この記事を読んでみろ。画家風の男とあるがお前に心覚えがないか」
 佐乃は渡された新聞の記事を急いで目で追っていた。
 「35、6歳で画家風の男、酒を飲むとあるわね。まさか、あの木崎さんではないでしょうね」
 木崎とは昨年11月にふらっと十湖邸へやってきた青年画家である。東京から来たと言い木崎九皐(きゅうこう)と名乗った。
 画は東京の日本画家で有名な島崎柳鴻に師事し学んだという。この年の2月まで十湖のもとで画会を開いたり、句会にも同行し、門人らと寝起きをともにしたこともあり、画家として成長しつつあった。
 2月の某日、京都へ行ってさらに上を目指したいと、意気揚々と中善地の十湖のもとを後にした。
 その木崎が、今記事になっている。いや、そうとは一概に決め付けられない。
「わしも同じことを考えていた。だが」
 と言いかけて十湖は着ていた寝巻きを放り出し着替えを始めた。
 「小野田屋へ行って来る。たぶん詳しい話が聞けるだろう」
 
               (次回に続く)
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