俳人十湖讃歌 第198回 十湖の事件帳(7)
「そんなことはどうでもいい。八重と木崎には何か変わったことはなかったかと聞いてるんだ」
まだるっこいひでの話に少し苛立った。
「あの子は、誰にでも親切に接するから恨まれることはないし、木崎さんが長く逗留していたから仲良くはなったけどね」
「まあ、よくある話だ。すると木崎が八重を追っかけて行ったとも考えられる」
十湖は一人納得をしていたが、ひではすこし怪訝な顔をして
「十湖様悪いわね。あまり役に立たなくて、もう仕事をしなくちゃあね」
と十湖の顔色を窺いながら頭を軽く下げた。
十湖は自宅への道をたどりながら、この真相を知るためには八重に会うのが一番の早道だと思った。思い立ったらきかない十湖は、口実をつけて伊勢へ行ってみようと考えていた。
翌日、十湖は既に車中の人だった。
伊勢には自分の門弟がたくさんいる。誰を訪ねても快く泊めてくれる。
今回は目的が違うので俳人仲間のところに腰を降ろし、一応句会を催すことで木崎と八重の情報が収集できることを期待していたのだった。
伊勢神宮前まできたところで地元俳人大主耕雨を訪ねた。
大主から今晩市内の油屋旅館で句会を開くので、宿泊はそこにしたらどうかと勧められ、二つ返事で決めた十湖だった。