山本一力の「秋深し」を読んで
毎日,子供の自殺・いじめで新聞の主要な欄が占められている中で,少しホットな話題で気持ちよく読むことのできたエッセーだった。昭和34年,作者が体験したガキ悪の連中の秋深しの一こまである。内容を簡単に紹介すると,ガキ大将が山へ昼飯を食いに行こうと言い出したため,遊び仲間はそれぞれ家にあるものを持って山へ入った。米,飯ごう,丸網,鳥のモモ肉,魚のすり身のてんぷら。そして,作者は味噌を持っていった。赤貧暮らしの彼にとっては,かけがえのない品だった。仲間から馬鹿にされた。ところが,晩秋といっても南国土佐のことであるからランドセルにつめた鶏肉,てんぷらは腐って棄てるしかなかった。結局飯ごうで炊いた飯に味噌を塗った。渇いた喉を浸した湧き水が冷たくてなんと甘露であったことかというもの。この一文を読んで自分の体験ともスライドしてほんの数分であるが,学童時代へタイムスリップした。暗いニュースばかりの最近の報道にあって過去の体験から思うと,なぜこんな事件が起こるかと不思議に思う。つらいことは親に話した。聞いてくれた。親から見て自分が悪いときはぶん殴られた。反省した。家を飛び出した事もあった。でも誰かが止めに来てくれるだろうと小路の陰から覗っていた。遊び仲間が心配していた。そっと出て謝ったこともあった。学童時代はこの繰り返しだった。真っ赤に染まる夕焼けを見ては,みんなが待つ家へ帰ることの喜びがよみがえった。
参考:中日新聞 2006.10.31朝刊
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