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2013.03.24

忘れられた傘

   夕刻、入院中の母を見舞った時は、呼吸がくるしそうだと思ったが、酸素マスクを着けずに自ら呼吸していた。
  主治医が今週は山場だという。本当だろうか。
 にわかに現実味を帯びて気になってきた。
 病室に妻を残し、一旦自宅へ戻り、身寄りのものに連絡する。
一時間もしないうちに妻から呼び出しがあった。
 土砂降りの雨である。呼び出しはこの雨も呼び込んだようで、叩きつけるような雨の中、病院へ向かう。
 医師からの話しは臨終の宣告だった。
 親族で母の容態を見届け、その事実を確認した。
程なく看護師から搬送の方法について説明があり、まもなく依頼先の車両が来る。
妻が搬送車両に同乗し、私は自分の車で一足早く戻るため、病院を出るつもりだった。
雨は止む気配はない。
玄関の傘立ての傘を忘れず持った。
妻の傘を持って帰ろうとしたが、降りかかる雨につい忘れてしまった。
深夜の街道を抜け、静かに母の亡がらを自宅へと運ぶ様は、罪悪感さえ感じた。
葬儀社との打ち合わせは、その後午前二時頃まで及ぶ。
家族を失った事への悲しさを感じる暇はなく、ただ事務的に、淡々とことを進めていく。
通夜から告別式へと、二日間は寝食を忘れて、一連の儀式を終えた。
その会場を後にしたとき、妻が一言呟いた。
「傘を忘れていたわ」
 この言葉にふと二人とも我に還った。寂しさがこみ上げてきた。Syoten2

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