土産
まもなく5月の連休である。仕事でストレスが満タンな人には待ち遠しかった休みである。
我が家も世間の御多分にも漏れず、一次帰省で娘らが戻って来る。
かつて、旅行鞄に手土産一杯持って帰ってきたものだ。そのひとつひとつを紹介しながら帰宅の挨拶が終わる。
最近は荷物が重く感じるようになったのか、はたまた面倒くさいのか、事前に宅急便で送ってくる。
それでも送ってくれば可愛いものだが、このごろはとんとそんな様子はない。
駅まで車で迎えに行くと、四輪が着いた旅行鞄を引きずりながら近づいて来る。
大きなかばんには、いったい何が入っているのかと疑いたくなる。
土産は駅で買った小さな洋菓子の箱。これで当分この洋菓子を食わなくちゃいけない。
ーー俺は最中が食いたい。和菓子がいいのだと叫びたい。
それは云えない。
娘らは和菓子には見向きもしない。しかも荷物は軽いほうがいいのだ。
大きなかばんの中身は着替え、化粧品など日用品ばかりで、親への土産など小指の先ほど思ってはいないのだ。
それとも、和菓子など食べ飽きたというのか。
自宅の近所に大きな菓子屋がある。
一年中、かしわ餅を販売することで地域では有名な店だ。かなり遠方からでも買いに来るらしい。
好きな人にとっては待ち時間も苦にならず、休日ともなると販売時間前から長蛇の列ができる。
かしわ餅なんぞ五月の節句になれば全国どこでも菓子店で販売している。なのにこの騒ぎはなんだと云いたい。
娘たちにこの話をすると「ふうーん」と適当に流す。
いつだったか、こんなに有名だからと娘たちのために妻が並んで買ってきたことがあった。
だが娘たちの評価は辛かった。
ーーどこにでもあるのにね。私たち口が肥えちゃったのかしら
都会で売っているのと変わらないし、味だってかしわ餅以上の何があるのかと怪訝な顔をした。
土産に和菓子がないのは娘らの肥えた口のおかげで買って来ないのか。
俺にとっての土産は、たかが和菓子というが、されど和菓子だ。洋菓子など期待はしていない。
奥の間から妻の声が聞こえてきた。
ーーお父さん、お医者様に云われているでしょ。もう、甘いものは食べないでね。
まったくもって、憂鬱な連休がもうすぐやってくる。
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